障害者総合支援法ってなに?

〜国障年豊中市民会議シンポジウムが行われました〜


2012年6月23日(土)、14:15〜16:15まで、国障年豊中市民会議シンポジウム【障害者総合支援法ってなに?】が開催されました。
当日は国障年の第32回総会が執り行われ、その第二部としてのシンポジウムでした。
2010年に『障がい者制度改革推進会議 総合福祉部会』が設置され、障害者自立支援法に代わる『障害者総合福祉法』の制定に向けて、当事者を含むワーキングチームが検討を進められるも、国は今年3月、厚生労働省からはこれまでの議論が反映されることなく、『障害者総合支援法』を上程しました。
一体総合支援法とはどんなものか?そしてこれまで推進会議で議論してきたことは何だったのか?この先、これまでの議論がどこまで活かされるのか?
講師には、当初、障がい者制度改革推進会議室室長の東俊裕さんが来られる予定でしたが、事情により、担当室の金政玉さんが、代役で務められました。













金政玉さんは、今から2年前(2010年)に、障がい者制度改革推進会議室のスタッフになりました。
その前年の2009年秋に政権交代が実現して、政権与党となった民主党のマニフェストの中で、障害者施策に関して、以下の2つの事が掲げられました。
1.国連の障害者権利条約を批准するために、国内法の整備をする。そのために、内閣に障害者制度改革推進本部を設置をする。
2.障害者自立支援法を廃止して、新しい総合的なサービス法『障害者総合福祉法(仮称)』を制定する。

1.については、2009年12月に閣議で決定されました。
そして
2.についてですが、昨年の8月に法作成のための骨格提言が部会で作られ、厚労省が主に担当した骨子案が、今年2月に示されました。
結果、国会で『総合支援法』の名で成立しました。

★障害者総合支援法の成立に至るまで☆
今年2月に出された骨子案は、総合福祉部会からは「これでは丸で骨格提言が反映されていないじゃないか!話にならん!」と、非難轟々(ごうごう)でした。
これを受け、民主党内に『障害者ワーキングチーム』を作り、そこで法案の中身を作っていこうという事になったのです。
各関係団体からのヒアリングを含め、29回にわたってワーキングチームの会議が実施されました。
そして今年3月13日に政府案として閣議決定され、与野党の修正協議ののちGW前に衆議院にかけられましたが、たったの3〜4時間の話合いだけを経て、可決されてしまいました。

その後、6月20日に参議院でも成立となっています。

★今シンポジウムで紹介された、障害者総合支援法のポイント☆

障害者の範囲 障害者手帳を持っていなくても、医師の意見書等があって、実際には生活上の支援が必要だという人(難病・発達障害・精神障害など)は、サービス受給の対象とする(制度の谷間の人たちの救済)。
支給決定方法 障害程度区分という判定方法が、非常に問題があると指摘され続けてきたので、利用者本人の特性やニーズに応じた、正確な判定をしていく。
※名称が障害支援区分に変わった上で、区分認定制度そのものは残るという事。
支援体系 国裁量と市町村裁量に分かれる現体系ではなく、全国共通の仕組みで提供出来る支援体系を作っていく。
以下、具体的項目。
(1)就労支援(障害者就労センター等の創設)
   一般就労に制度上、きちんと切り替えていける様にするのも課題
(2)日中活動等支援(デイアクティビティーセンターの創設)
(3)居住支援(グループホーム、ケアホームの一本化)
(4)施設入所支援(セーフティネット機能等の明確化)
   施設入所を奨励するものではなく、現状、地域移行のための準備が整っていない人に対する施策。
(5)個別生活支援(パーソナルアシスタンスの創設=居宅・移動介護に対して)
(6)コミュニケーション支援及び通訳・介助支援
(7)補装具・日常生活用具
(8)相談支援
(9)権利擁護
重度訪問介護の対象 今までは、重度の肢体不自由者に限って対象となっていたが、知的や精神障害の人へも対象を拡大する。
民主党のワーキングチームの中で、「どんな障害の人が使える様に、拡大が必要だ」と発言した議員がいた。また、DPI日本会議からも同様の主張がなされた。
地域移行の促進 国による地域移行の促進を法に明記する事が必要。
意志決定支援の配慮 知的障害者や聴覚障害者など、意思疎通が困難な方に対して配慮されなければならない。
当事者の意見の反映 これまでの基本指針には、『当事者の意見を反映させる』という条文が無かったので、それを盛り込む。その上での、各自治体の市町村福祉計画策定としていく。


総括として金政玉さんは、「今回の障害者総合支援法は、対象者に難病の人が含まれた事は非常に意味があると思うが、骨格提言で言われていた事のほとんどが、『3年後の制度見直しで検討する対象』の中に含まれてしまい、その意味では、『3年後に見直しするための法案が出来た』と言わざるを得ない」と述べていました。
果たして3年後、どの様な見直しが実際になされるのか、当事者・家族・関係者が、しっかり議論に参画をしていかなければならないという事でした。

骨格提言で示された中身の幾つかは、試行事業として行いながら検証していくという事ですが、なかなか今回の法律では、課題が解決出来ていないという結果になった様です。


会場全景。場所は障害福祉センターひまわり体育室です。


講演終了後、質疑応答が行われましたが、その中で、「今の話の中で聞いた、新法で謳われている事というのが、実際にどこまで反映されているのか、今一ピンと来ない」という指摘がなされました。
これに対して金さんは、「過去に、『自立支援法は憲法違反だ』とする訴訟が起こった事がある。その後政権が代わり、現与党の民主党は、『自立支援法は廃止する』と公言していた。今回の総合支援法は、自立支援法の改正という位置付けなので、先の訴訟団から見れば、『全然廃止されていないではないか!』という事になる。ただ、対象者の中に制度の谷間に置かれていた難病の人を含めた事や、重度訪問介護の対象枠拡大など、骨格提言で出された事の実現につながる内容は、盛り込まれている。それと総合支援法の中では、『PDCAサイクル』というのを盛り込む。P=プラン、D=Do=行う、C=チェック、A=アクト(Act=改善する)を意味している。『反映度』を数字で表すならば、相当低い(厳しい)数字になるだろう」と回答していました。

もう一つ、「区分認定について、障害程度区分から障害支援区分に名前は変わっているが、区分そのものは残るのか?」という質問がなされました。
これについては「特に知的障害者や精神障害者の特性に応じたやり方に改め、支給決定に反映されやすい形にしていきたいが、区分そのものは残る」という回答で(上記の表も参照)、質問者を始め、かねがね『程度区分』の存在そのものに疑問を感じていた参加者は、一様に残念そうな表情を浮かべていました。













さて、この後は、以下の2人のパネリストによる発言がなされました。

西尾元秀さん(障大連)
政権が代わり、推進会議が始まった時点では、『これから大きく変わるのではないか?』という期待を強く持ったと思います。
それが、段々「あれ?」という感じになっていって、最近では怒りから諦めという方向に、変わってきてしまった感があります。
金政玉さんや東俊裕さんの尽力があったからこそ、今見られている進展があるのだろうと思う反面、厚労省の考え方はなかなか変える事は出来ません。
それに対して強力を及ぼすべき与党民主党も、途中から担当が誰なのかよく分からなくなったというのもあって、残念だ、ガッカリしたという気持ちになっています。

法律というのは、枝葉の部分を変えていっても、先程の会場からの質問でもありましたが、区分判定を、介護保険に沿ったやり方で行うというシステム、これ自体が変わらないと、本当に変わったとは言えません。

今回の、総合支援法の概要を見ていて、この程度の変更で『新法』と言えるのか?という疑問を感じました。
これではちょっとした手直しでしかないと思います。
ところで、推進会議は今後、『障害者政策委員会』という形に改編されて運営されるのですが、運営にあたっては、『公平・中立を旨とする事』と、当たり前の事が謳われています。
「何でわざわざ、こんな当たり前の事を」と思ったのですが、政策委員会のメンバーに、今回の新法に反対している人も多数入る事から、その事を不安視した一部国会議員の心情が反映されて、『公平・中立』となった様です(苦笑)。

この先、政権与党も見ての通り、どうなるのか判らないので、2014年、2016年の時点では、今とは違う枠の中で闘う事になっているでしょう。
「障害者の地域生活に根ざした意見をどんどん挙げていき、国の制度に影響を及ぼしていく」という点では、今回、一定の力を発揮出来たと思うが、まだまだ数的にも力不足だと思っています。
これからも私たちは、大きく手をつないでやっていかなくてはいけません。

パネラーのお二人(右)と、司会を務めた井上康さん(左)

上田哲郎(当センター)
先程の西尾さんの話でもあった通り、私も障害程度区分がある限り、障害者が地域でいきいきと生活するのは難しいのではないか?と、特に最近では感じています。

新しい法律になっても区分は残るという事ですが、日頃よく障害児の親御さんと話をする中で、「どうせウチの子は、程度区分ではこの時間数しか出ないやろうから、一人暮らしなんてムリや」と言う母親たちが、多い気がしてなりません。
私が聞いていて、「それは違うで」と思う点もありますが、母親としては、もう諦めている心境というのか、なかなか前向きにはなってくれません。
「一体この問題をどうしたらいいのか?」と、日々自分の中で葛藤しています。
障害って、親の中ではマイナスイメージになってしまうのかな?と感じる事もよくありますが、その背景には制度の、特に区分のやり方が、障害=マイナスと捉える事を誘発している、というのがあると思います。
何とか程度区分のやり方を変えていかないといけない、と実感しているところです。


障害者自立支援法が始まってから6年、障害者の実態や自立生活に相容れない区分判定のやり方には、誰しもが疑問を持っていたと思います。
それが、総合福祉法になれば無くなるかも知れないという期待感も、政権交代が行われた直後には少なからずありました。
今、障害者施策に限らず、社会の諸問題に関して、国民の、現政権に対する失望と諦めの空気が広がっていると思います。
そんな中でもう一度、先ず希望そのものを心の中で再建させ、そして制度改善に向けて行動していかなければならないというのは、大変厳しい前途と言えるでしょう。
『終わり無き』という言葉は使いたくありませんが、少しでも国のお家芸である先延ばしに待ったを掛け、即成立即施行の制度の実現を目指すべく、闘いを続けるしかないのだと思います。


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