『高次脳機能障害 当事者・家族等研修会』に参加しました


2008年1月12日(土)、東淀川区の『クレオ大阪北』にて、『高次脳機能障害 当事者・家族等研修会』が行われました。
これは、『平成19年度 大阪府高次脳機能障害支援普及事業』の一環として行われたもので、はじめにこの事業のコーディネーターより、大阪府の取り組みや今後の展望について報告がありました。

以下、主な内容です。

2007年4月1日に、障害者医療・リハビリテーションセンターを開設し、その中にある『障害者自立センター』において、リハビリ等を受けた当事者の、社会生活力を高めるための支援をおこなっています。
そして、新しい相談施設として『障害者自立相談支援センター』を設置し、個々の障害の特性に応じた支援を展開しています。
2007年度上半期の相談件数は471件で、本人からよりも、家族からの相談が圧倒的に多い、そして性別も、男性が8割を占めるという事です。
ほとんどの当事者が在宅で、40歳以上が約7割を占めています。

冒頭、あいさつした、大阪府の担当者の方々 大阪府からの報告


今後の支援については、一つの機関のみではやっていけないので、家族会や障害者就業センターはもちろん、医療機関、教育委員会、こころの健康センター等、地域の社会資源と連携しながらやっていきたいという事です。
最後に、最新案としてのモデルネットワークを、図で紹介していました。



さて、この後は、東京慈恵会医科大学 リハビリテーション医学講座教授の、橋本圭司さんによる講演が行われました。題目は『高次脳機能障害 〜どのように対応するか〜』です。
実にコミカルで分かりやすく、表情豊かに参加者に語りかける講演で、みな大いにウケていました。
開口一番、「私は今から機関銃のようにしゃべるので、恐らくみなさんは『神経疲労』という、高次脳機能障害の状態に陥ると思います。」と、場内を爆笑させました。そして、
「伝えたいメッセージは2つ。一つは『この障害は良くなる』、もう一つは『リハビリの場は病院だけではないんだ』です。」

以下、講演の要点ですが、
まず高次脳は、脳の面積全体の3分の2を占めるということです。そして、『脳の中には数式ある』として、y=ax+bというモデル数式を紹介しました
y=出力(反応)、x=入力情報(目や耳から入ってくる情報)、a=外部からの刺激や言葉など、そしてb=経験値(印象や認識)だという事で、この数式が壊れている状態が高次脳機能障害である、と述べていました。

本物の数式と違って、脳内の数式には、『正常値』というものがありません。
従って、もともと正常値がないものが壊れた状態(=高次脳機能障害)を直すというのは、大変なことになるわけです。

さて、New York大学Rusk研究所というところで、橋本先生は、『神経心理ピラミッド』というものを教わりました。
神経心理ピラミッドは、『人間がどういう状態でどういう理由の時に、どういう気持ちになって、何が出来るようになって何が出来ないようになるか』ということを、分かりやすく徹底的に解説したものです。
例えば、『疲れていなければ、集中力が出る。集中力が出れば、記憶出来る。記憶出来るから、後で思い出せる。』といった具合です。


高次脳機能障害の人は、注意力や集中力の維持が難しく、また感情のコントロールも容易ではありません(つまりイライラしている)。
一方で、記憶力そのものも非常に低下しているので、メモリーノートを取る必要があるのですが、イライラして、集中出来ない状態で、果たしてメモリーノートをきちんと取れるか?これは難しい問題となってくるのです。
そもそも、これは高次脳機能障害者に限らず、人間なら誰でも同じことが言えます。

疲れている時にムリに勉強しても、何も頭に入りません。
そして、先ほどの『脳内の数式』でも表せることですが、例えば好きな人から「がんばれ」と言われたら、やる気になっても、嫌いな人から言われたら、やる気が失せる、となってしまいます。
高次脳機能障害の場合、特に『メモを取ってもらうため』、『円滑にコミュニケーションが出来るようにするため』に、当事者に何かを促したり指示を出したりする人は、本当に信頼を持てて、心を許しているという事が、一般の人間同士以上に重要になってきます。

これまでの、高次脳機能障害に対する支援は、例えば記憶なら記憶、注意力なら注意力、感情抑制なら感情抑制と、それぞれを分けて別々にリハビリ等をしていました。
しかしこれからは、全てを一つにつなげて、トータルにプログラムを組まなければならない。
上記の『神経心理ピラミッド』は、そのことをハッキリと教えてくれたといいます。

大変面白い講義でした。橋本圭司さん 『神経心理ピラミッド』を語る


ところで、イライラせず、疲れも取れて、集中出来るようにするために、橋本さんは次の方法を、みんなに教えてくれました。
『姿勢を正し、深呼吸をして、水を飲む』
曰く、「今日明日からでも出来るリハビリです。だまされたと思って、ぜひ試して下さい。」

今回の研修は大変分かりやすく、リハビリの内容が、当の障害者にとってだけでなく、私たちみんなにとっても、効果がある。言い方を変えれば、リハビリが必要なのは、当事者だけではない。私たちも日頃、いろいろな疲れを感じ、ストレスを感じ、物を忘れ、それを解消するためのリハビリが必要な存在なのだ、ということを、深く認識させられたと思います。



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