2012年1月21日(土)、14:00〜17:00まで、大阪市立大学医学部医学情報センター研修室にて、公開講演会『障がい児・家族への協働的支援のこれから』が行われました。
先般、障害者基本法が改正され、障害当事者のみならず、家族への相談支援が、そして、家族が互いに支え合うための活動の支援も、国や地方公共団体の責務として新たに加えられました。
それを受けて、これからの障がい児・家族支援の在り方を考えるべく、これまでの取組・研究の成果が報告されました。
当日は第一部として5名の人からの報告がなされ、第二部として、堺市立重症心身障害者(児)支援センター準備室室長の児玉和夫さんから、基調講演が行われました。
以下、各報告内容を順にお伝えしていきます。
1.家族のニーズとは? 『FNS−J(日本版 家族ニーズ質問票)の開発を通して』
植田紀美子氏(大阪府立母子保健総合医療センター 企画調査部)
“ニーズ”には、4種類がある。 具体的に『誰が、どうしてほしい』と明言されるニーズは明示的ニーズ、充足の必要性はあるが、まだ明言はされていないニーズは感覚的ニーズ、一般的に、本来必要とされるべきニーズは模範的ニーズ、他者の実態と比較して「私も」と感じるニーズは比較的ニーズ。 家族支援の現場では明示的ニーズの対応に追われており、それ以外のニーズに対する対応が不十分になっている。 FNS−Jとは、『Family Needs Survey Japanese Version』の略で、日本語では『日本版 家族ニーズ質問票』。モデルとなったのは、1990年頃にアメリカで開発された、FNSという質問票(アセスメント手法)である。 乳幼児期にある障害児の、家族ニーズを把握するために開発された。 FNSは、課題を指摘したり、家族にプレッシャーを与えたりするアプローチではなく、直接的にニーズを問う項目を設け、支援活動につながるよう配慮されている。 子どもの障害種別や程度、出生順に関係無く、あらゆる障害児家族が使用可能であるほか、インテーク(初期面接)、継続的相談、家族同士だけの相談の時など、多用な場面で使用出来る手法である。 FNS−J式アセスメントは、三択方式と自由回答方式から成り、三択方式では、回答者は用紙に書かれている各項目に対して、『相談しなくてよい』、『わからない』、『相談したい』の中から一つを選択する。 FNS−Jは診断ツールではないので、その様に誤用されないようにする事が、重要課題の一つである。 今後は様々な相談場面で、どのようにこのシステムを活用出来るかを示した方針を作成していきたい。 想定以上のニーズというのは、必ずあるものだ。 |
2.心臓に障がいをもつ子どもの胎児期からの家族支援 『胎児心臓診断専門施設に対する全国調査から』
河津由紀子氏(同 小児循環器科)
近年は日本でも様々な『出生前診断』が増えている。 その中で、胎児期から『生まれつき心臓病(先天性心疾患)』と診断されるケースも急増している。 その様に診断された家族(特に母親)に対する心理的サポートが必要であるにもかかわらず、日本では体制が確立されていない。 医療現場では、「いかにして心疾患を正確に診断するか」という事と、「いかにして胎児の生命予後を良くするか」について取り組んでいる。 報告者の所属団体では、家族用パンフレットによる情報提供やケースワーカーの紹介、家族会の紹介のほか、同じ体験(出生前診断で我が子に心臓病がある事が判明)をした親同士のピアカウンセリングを実施している。 育児中の母親が対象の、親子のストレス状態の早期発見→軽減に役立つ質問票として、PSI(育児ストレスインデックス)というのがある。 PSI実施の結果、判ったことの内の一つとして、自分の子どもに心疾患があることによってストレスは感じる一方、孤立感・抑うつ感は強くないというのがある。これについて、胎児期からの医療スタッフ等との関わりがある事が理由だと推測される。 |
3.病院小児科におけるライフステージに応じた家族支援 『医療現場から福祉サービスへのアプローチの実態 小児科全国調査から』
岡本伸彦氏(同 遺伝診療科)
医療機関が抱えている課題として、障害の発見やリハビリを行う上で、漏れや遅れが生じる場合がある事と、サービスを受けるには家族による申請が必要であるため、家族からの相談や家族への支援が乏しいと、サービス享受が遅れてしまう、というのがある。 さらに、障害が発見された子どもの支援は、生後一生涯続くため、長期的なケアを行い、地域生活支援に円滑につなげる事が望まれるが、それがうまくいかず、退院後、地域での孤立を招きかねない。 障害の告知にあたって心掛けている事は、両親が揃った状態で行う、周囲に育児に協力する人がいるかどうかの確認、それに家族が不安のあまり、我が子の障害を誤認した場合の正しい知識の提供、などである。 生まれてきた子どもがやがて成人になった時、小児科診療から内科等成人診療科への移行が課題となるが、現状、引き受けてもらえる科がほとんど無く、仕方無く小児科での診療を継続している場合もある。 また、小児科と家族との信頼関係が深くなって、関係を断ち切るのが難しいほか、医療機関が、就学期以降の福祉サービスに関して情報を持っていない場合が多々ある。 |
4.母子保健活動における障がい児家族への子育て支援 『地域における虐待予防との関連から』
佐藤拓代氏(同 企画調査部)
アメリカでは2009年、虐待を受けた児童における障害児の割合が11.1%であった。 日本では、全国児童相談所長会の調査によれば、2009年は2002年に比べて、虐待を受けた児童に占める障害児の割合が2倍に増えた。 上記2009年度における障害の内訳は、精神・知的が7.4%、身体が1.9%、発達が6.1%である。 乳児期早期から障害がハッキリしている子どもに対しては、保健所が育児そのものの支援だけではなく、親に寄り添い、障害の受容のための支援を行い、関係機関との調整をおこなった。 そうする事で、虐待予防の支援が効果的に行われる結果となった。 一方で、家族・親族等の私的ネットワークが弱く、保健師に対しても不信感しか持ってくれない場合は、虐待予防の支援が困難であった。 保健師が、虐待予防の支援活動の中で注意しなくてはならない事は、障害児との母子関係(親が子どもから離れたい気持ち・離れられない気持ち)を理解して関わる、虐待が疑わしいケースは保健師が抱え込まずに多機関に支援を呼びかける、支援を求めない拒否的なケースに対してもタイミングを逃さず支援する(保健師が機転を利かして)、などである。 |
5.障がい児と虐待 『肢体不自由児施設における被虐待児の実態・追跡調査から支援方策を考える』
下山田洋三氏(社会福祉法人愛徳園 愛徳医療福祉センター重症心身障害児施設
愛徳整肢園)
肢体不自由児の施設においては、ネグレクト(無視される)が、全国統計の倍近くある。その一方で心理的虐待は、全国統計の1/12ほどである。 虐待発生以前は障害がなく、虐待の結果として障害が生じた児童は、虐待された障害者全体の約20%である。また、元々障害があったのが、虐待の結果としてさらに重度化したり、新たな障害が生じた児童は、全体の約14%となっている。 主たる虐待者は、実母がそれ以外を3倍近く引き離して最も多く、次いで実父が多い。 親から虐待を受けて施設に避難入所していた児童が、虐待した親の元へ帰る場合、その親への対応としてまとめたものが、以下のとおりである。 @話の傾聴、A子どもとの接し方についての助言、B親の疾患の治療、C福祉サービスの調整、D児童相談所との調整 など。 虐待予防の支援において、保健師に注意をしてほしい事は、【障害受容は保護者に寄り添って慎重に支援する】、【疑わしいケースは保健師が抱え込まず、要保護児童対策地域協議会等にのせる。障害児の場合は特に専門スタッフの力が必要】、【親の支援と併せて、障害を持つ子どもの変化や必要な診療・医療・療育の視点を持つ】などである。 |
会場の様子。画像は前半分で、 全体ではこれの倍近い参加者がいました。 |
冒頭の主催者からの挨拶の際に示されたスライド。 家族ニーズのアセスメント指標開発が研究の目的とあります。 |
★基調講演:『障がい児・家族への協働的支援のこれから。発達診察を通してお伝えしたいこと』
児玉和夫氏〈堺市立重症心身障害者(児)支援センター〉
今から30年以上前は、脳性麻痺かも知れないという赤ん坊は、いわゆる『4ヶ月診断』を待たずに、出来るだけ沢山発見して、出来るだけ沢山訓練すれば、その赤ん坊は脳性麻痺にならなくなる、つまり健常児になると言われていた。
そんな時代だから、若年だった私もそれを信じて早期発見・早期訓練に積極的に取り組み、今思えばそれは、私のキャリアにおける功罪の、『罪』の部分なのかも知れない。
脳性麻痺として生まれてくる赤ん坊は500人に1人ぐらいだが、当時は生まれた赤ん坊の10人に1人ぐらい(の親)が、私が勤めていた保健所で訓練を受けにきていた。
そのくらい、脳性麻痺というのが、「万が一なっていたら大変だ」と受け取られる時代だった。
保健師さんたちも訓練が生き甲斐とばかりに、本当に熱心に取り組んでいて、『脳性麻痺(に限らず障害)は、訓練して治す対象ではない』という認識は、まだ無かった。
障害でも疾患でも、早期発見そのものが大事というのではなく、早期発見から何を支援出来るか、それも専門家だけではなく、親御さんも一緒になって考え、支援出来るかが大切。
赤ん坊→少年・少女→成人期と本人が生きてゆく中で、本人が障害であるという理由で何が問題になるのか、二次的・三次的に障害が広がるのを食い止める事は出来るのか、それを親御さんと一緒に考えて、療育やリハビリ等必要な事をおこなっていく。
親御さんも参加して何をやっていくかが大事だと考えているので、障害の『告知』自体には力点を置いていない。
昔、「訓練さえすれば良くなるんだ」という認識がまかり通っていた時代は、子どもが2歳・3歳になっても状態が変わらないと、燃え尽き症候群になってしまう親や保健師もいたと思う。
発達診察という仕事をやっていると、毎回親御さんに会うたびに、何か好いことを言ってあげなくてはいけないという義務感に駆られた事がある。
或る時、定期的に訪ねてきた親に、「申し訳ないけど、毎回具体的な成果を報告するという事は出来ません」と正直に話した。
そしたら後日その親から手紙が来て、「よくなったという報告とか、逆になぐさめの言葉とか、そういうものを期待しているのではない。私が自分の子と毎日頑張っているのを、一緒に寄り添って、見てくれる事を期待している」と書いてあった。
「ああ!そういう事か!」と、当時30代半ばだった私にとっては、まさに目から鱗だった。
そうなると色んなことが見えてきた。
親御さんと一緒の目で見ると、変化が無いように見えても実は変化があるという事が分かった。
自閉症や発達障害など、見た目には分からない障害の場合は、どこまで『障害の受容』というテーマを掲げたら良いか、微妙な問題となってくる。
自閉症の子どもに対して、最初からいきなり『自閉症です』と認めて接するのではなく、先ずは本人の母子関係を観てみた上で、一人の子どもとして他と同じに接し、変化を見続けていく、というアプローチをおこなった事がある。
写りがやや小さいですが、児玉和夫氏です。 | 児玉さん講演中のスライドの一コマ。 |
この後児玉さんは、自身が記録した動画を公開しながら、保健所での活動や児童の様子を解説していきました。
最後に児玉さんは、「発達障害の親御さんの中には、『とにかく療育、療育。リハビリ、リハビリ』と、その気持ちばかりが先走って、もっと具体的に自分の子にどういう支援が必要なのか、分かっていない人も少なくない。そういう親は、性急に大きな成果を求めている傾向があるから、もっと絞って絞って、身近なゴール、目の前の目標から始めてみたら、おのずと変化も見えてくる」と言っていました。
CIL豊中では昨年の11月、児童デイサービスが開業しました。
今後は、『児童やその家族』に対する支援というのも、これまでより更に身近な課題となって、関わりが深まってくると思います。
そういう意味では、参考になる話を聞けたかも知れません。