NPO法人CIL豊中 理事長 徳山辰浩
たんの吸引は、決められた時間でするものではなく予測不可能です。必要なときに吸引しなければ直接死にかかわります。吸引は原則医療行為であるため、医師・看護職員及び家族(医師法違反を許される)しか出来ないとされてきました。しかし、本人及び家族の強い要望により障害者全身性介護人派遣サービス等の自薦方式のヘルパー(一般のヘルパー派遣と同じ国のホームヘルパー制度。現在は支援費制度に移行)を中心に一部でヘルパーの吸引は行われてきたのが現実です。
その主な理由としては次のことが言われています。
@在宅看護サービスの絶対的不足(家族は例外的に許されているにもかかわらず24時間365日休み無しに吸引している)。
A緊急避難。
B本人が認めた特定のヘルパーも家族と同等に見なす。
Cヘルパーが吸引をする危険より、吸引をしない事による生命の危険の方が高い。
D一人暮らしや家族の介護力が望めない場合、ヘルパーが長時間やらざるを得ない。
E医師法には何が医療行為か具体的に規定されてなく、最終的には個々の事例に即して判断される。厚生労働省は原則として吸引は医療行為だが、全ての吸引=医療行為と断定していない。
F介護保険や支援費制度の指定事業者が吸引をやっているからといって指定取り消しになることはない(厚生労働省の見解)。
G自分自身の人工呼吸療法に精通した本人が、自己責任において慣れた特定のヘルパーに指示を出し吸引を受けるとき、ヘルパーを本人と同等に見なす。
ヘルパーが吸引をして在宅生活がなんとか成り立っている方々がいる実態があります。国は、ヘルパーの吸引を一切強行的に禁止した場合、この方々の生活が破綻し死人もでることが分かっているため、この問題についてグレーゾーンとしているのが本当のところです。
日本ALS協会の約17万人の署名とヘルパー等が吸引を行うことを認めてほしいという要望書が大きなきっかけとなり、2003年2月に「新たな看護のあり方に関する検討会」の分科会として「看護師等によるALS患者の在宅療養支援に関する分科会」が設けられ、「ヘルパー等介護職が在宅ALS患者の吸引をするのは当面やむを得ない」という報告書がまとめられました。条件として「医師・看護職員による指導」「患者が文章で同意する」「医師・看護職員との連携による適切な実施」「緊急時の連絡支援体制」などがあげられました(医師・看護職員による指導及び医師・看護職員との連携は医師法違反を許される最も重要な要件である「手段の相当性」を構成します)。
しかし、この報告を受けてALSの方の吸引を行なうヘルパーや事業所が増えたとはあまり聞きません。今回の報告書は介護保険や支援費制度の介護時間内でのヘルパーによる吸引を認めただけで、ヘルパーの業務として位置づけるものでないとしています。このため事業所やヘルパーに実施する義務はなく、リスクがあってもやる意志のあるヘルパーや事業所は条件付きでやってもよいと言っているだけなのです。
吸引はヘルパーの業務として位置づけるものでないとされていますがヘルパー個人の責任で取り組むのは現実的ではありません。事業所がALSの方と家族の現状を理解し、互いの信頼関係を基本に意志と責任を持って取り組むべきだと考えます。実施に当たっては、吸引を行なうことによるALSの方の危険や万が一の責任に関するリスクを最小限にする必要があります。そのためにも、報告書の主条件である医師・看護職員との協力・連携をいっそう高める努力(分科会では主治医の積極的役割の大切さが強調されています)が改めて必要になります。