5月28日(日)に、NPO法人であいの郷市民委員会主催による、『第12回であいサロン
公開講座』が開催され、参加しました。
今回のテーマは、『中途障害者の生活・生き方を語り合う』で、メインスピーカーは、当センターとも関わりが長い、篠部武史さんと井上郁子さんでした。
最初に篠部さんが講演し、先ずは事故直後のようすについて、以下のような話をしました。
「24歳の時、建築現場で足場から足を踏み外して約8m下に転落し、脳挫傷となった。
事故直後は医師から、『ここ2〜3日が山で、助かる見込みはほとんど無い』と言われていた。
1週間経った時、目の動きと手を握り返すという反応を初めて示し、家族や病院の人たちは大喜びをした。
奇跡的に一命を取り留めたが、数ヶ月後、突如、気管切開部から出血が起こり、胸部切開の手術を受けた。そのときも病院からは、『助かる見込みはゼロだ』と言われたが、またしても奇跡的に助かった。
1年半の入院を経て家に帰ると、茶の間が改造されていて、シャワー室、トイレ、ベッドがある部屋になっていた。また外から車いすで入れるように、昇降機も取り付けられていた。」
篠部武史さん |
入院中に、両親が家の中をバリアフリーにしてくれていたのですが、次に退院後の生活について、
「最初は胃に穴が空いており、そこから流動食を摂取していたが、今では口から何でも食べられる。ただ、体が震えるため、字を書いたり物を拾ったりすることは出来ない。ここまで治ったのは、両親の支えに加え、自分自身の『治ってやる』という強い意志もあった。」
と述懐していました。
さらに、障害者になって、何か今の自分にも出来ることが欲しいと、電動車いすサッカーを始めたという話にも触れていました。
当日は実際に使用しているサッカーボールも持参しており、一部プレーも披露してくれました。
電動車いすサッカー用のボールも登場しました。 アップで写していますが、 普通のボールよりかなり大きいです。 |
ボールの蹴り方を披露します。 |
続いて、井上郁子さんが講演され、先ず障害者になった経緯と直後のようすについて、以下のような話をしました。
「私は車で山道を走行中、転落事故を起こして首の骨を折り、四肢体幹機能障害になった。
事故直後は、一生このままかなあと思ったが、別にそれは悲観的な気持ちからではなく、ごく自然に自分の障害を受け入れた。
よく人から、『どのようにして障害を受け入れたのか?』と訊かれるが、自損事故ということもあり、どうせ助かった命なのだから楽しく生きようという気持ちで、親から『なんで泣いたりしないの?』と逆に訊かれるぐらいケロッとしていた。
何より、友達が今までと変わらず接してくれたのが、一番嬉しかった。」
と、ひょうひょうとした調子で語っていました。
転院を繰り返したのち、3年半の入院生活を経て退院したのですが、その後の生活について、
「母の肩一つに介護がかかってくるということで、最初は施設入所を考えるも、プライバシーが全く無い施設の環境を見て、母が出来るとこまでやろうと思って家に連れて帰ってくれた。
ただ、家が階段しかない団地の4階で、出かけるのが大変だったので、ボランティアに来てもらって、おんぶをして1階に降りていたが、『このままでは危ないな』と思い、市営住宅の1階に移った。」
と述懐。引っ越し後、現在に至る生活については、
「当時は福祉センターひまわりが出来て1年目で、そこの講座にいろいろ参加して、そこで出会った人たちに、とにかく自分の現状・困っていることを言いまくった。その結果、良い情報を持っている人と出会うことが出来た。ヘルパー制度のことを教えてもらったので、親の力を借りながらも、少しずつ介護のコーディネートもやっていく力を身に付け、結果、現在では親の手を一切借りずに生活出来るようになっている。」
と、自立生活を送る上で、情報交換のネットワークが不可欠であることを語っていました。
井上郁子さん |
そして井上さんは、自身の体験から、
「みなさんも情報源を持って欲しい。自分で何もかもカバーすることはムリだ。」
と呼びかけ、日々制度を利用することを通じて、
「障害自体に休みは無い。制度はぜひ24時間365日使えるようになって欲しい」
と強く要望していました。さらに障害者になって初めて気付いた点として、
「役所の窓口の人は、プロで正確な情報を持っているものだと思っていたが、全然そうではない。だから自分たちもしっかり情報を持って、一度窓口で断られたからと言って諦めないでほしい。」
と、当事者のエンパワメントを促していました。
二人の講演の後は、いろいろ質問も出され、特に就労や社会活動についての質問が多く出されたのですが、就労については、
「通えるという事が大きな条件になる場合が多いので、なかなか難しい。」
というのが一番重い現実として報告され、また社会活動についても、
「応益負担になり、生活のことだけに集中せざるを得ないので、例えば交通費を払ってどこかに活動に行くということは、出来なくなりつつある。」
と、苦しい胸の内を明かしていました。
もう少し、中途障害者ならではの感じ方や生き方、特に先天性障害者との違いという部分にも、スポットを当てた進行をやってもらえたら好かったなという思いも残りましたけど、有意義な話を聞けたサロンだったと思います。
両スピーカーと、コーディネーターの永田良昭さん | 会場全景。場所は男女共同参画推進センター すてっぷ4階の会議室でした。 |