2013年7月21日(日)、2013年度第1回市民講座を開催しました。
昨今、精神障害者への支援に関する相談件数が増えています。
統合失調症やパニック障害といった言葉(障害名)を聞く機会も増えてきました。
しかし、障害に関する概要的な知識はあっても、本当に当事者の実態を把握し、理解出来ていると、果たして言えるのか?
今回は当事者に最も近いところで支援をされている、地域活動支援センターの方より、現場の声を届けてもらいました。
講師を務めて下さったのは、『医療法人豊済会 サポートセンターる〜ぷ』の精神保健福祉士、高畑美海(たかはたよしみ)さんと、『NPO法人バムスぴあ 地域活動センタークム』の杉本博一(すぎもとひろかず)さん、それに当センター副理事長で精神障害者ピア・カウンセラーの山口博之(やまぐちひろゆき)です。
サポートセンターる〜ぷ 高畑美海さん
サポートセンターる〜ぷ(以下、る〜ぷと称す)は、精神科単科の小曽根病院を母体とした、医療法人豊済会に属しています。
る〜ぷでは、地域活動支援センター(以下、地活センターと称す)事業と、地域活動支援をおこなっています。
地活センターとは
障害者総合支援法の中の、市町村裁量の事業として存在が定められているもので、豊中市から委託される形で事業運営をしています。
豊中市内では、る〜ぷと、このあと講演される『クム』の、2ヶ所の地活センターがあり、地域に住んでいる障害のある人やその家族、友人、近所の住人といった、誰もが気軽に門をくぐれる相談窓口として存在しています。
精神保健福祉士や社会福祉士の資格を持っている人も在籍していて、生活を送っていく中での悩みを聞いて対応にあたっています。
高畑美海さん |
具体的な相談内容は、以下のような感じです。
・最近、家事ができにくくなった
・病気の症状に苦しんでいる
・外出が出来にくい
・家に引きこもってしまっている
・外出したいけど行くところがない
・友人がいなくて寂しい
・誰かと話がしたい
・仕事がしたい、復職したい
・何かとお金がない
・お金の管理が難しくなってきた
・物事がうまく判断出来なくなってきた
・退院したい、退所したい
など
悩みの中には、福祉サービスを使うことで、上手く改善したり、生き方をスムーズになるケースもあるので、そのための情報提供を行い、サービス利用のためのサポートをしています。
地域活動支援
地活センターが、相談窓口として機能しているのに対して、地域活動支援では、皆がゆったりと寛げるように、フリースペースやサロンと呼ばれる憩いの場を用意しています。
会場全景、当日は約40名の方が参加されました。 |
フリースペースでは、一般の家庭にあるような、ソファー(リビング)やキッチン、食卓のほか、テレビ、DVD、パソコン、書籍も用意しています。
さらには新聞も取っていて、自由に読むことが出来ます。
利用に当たっては、1年間ごとに利用登録をしてもらっていますが、現在120人が登録されており、その全員が何らかの精神疾患を持ち、通院しながら生活しています。
男性は約80人、女性は約40人で、男性の割合が高いのが特徴です(他市の地域活動支援でも同様らしい)。
どの障害の方でも利用は出来るのですが、る〜ぷが精神科単科の病院を母体として運営しているため、その流れから精神障害者の利用が多数を占めており、残念な事には建物のバリアフリーが完全に整っていないのが現状です。
最近では、発達障害者の利用が増えてきていると感じます。
地活プログラム
自由に寛げるフリースペースですが、ちょっとした活動が出来るプログラムも用意しています。
現在8種類のプログラムがありますが、進行は通所される利用者主体で、利用者と一緒に新しいプログラムを作る事もあります。
以下に8種類の内容をご紹介します。
・朝コーヒー(月・水・金曜10:00〜11:00)
・午後コーヒー(火・木曜15:30〜16:30)
・スイーツクラブ(第二金曜13:30〜15:00、費用100円)
・生活サポーター勉強会(第二・第四土曜14:00〜15:00)
・食事会(日曜10:30〜13:00、費用300円)
・パソコン講習会(第一・第三水曜14:00〜15:00)
・おまつり委員会(概ね月1回)
・LinkParty編集会議(第二土曜15:30〜16:30)
スイーツクラブではお菓子作りをしますが、作ること自体よりも、みんなで集って話をすることが目的となっています。
食事会では調理をしますが、みんなで一緒に作って達成感を味わうことが目的となっています。
パソコン講習会では、地域のボランティアが講師をされ、利用者一人一人が、思い思いの課題を持って来てクリアしようとしています。
生活サポーター勉強回では、小曽根病院に入院している患者に退院意欲を持ってもらうことを目的としており、る〜ぷの利用者が病院に行って地域での生活体験を伝えたり、入院している人がる〜ぷを訪ねたりして、ある時はイベントも企画するなど、交流を深めています。
これらのプログラムに関わることで、障害がある人同士の出会いが増えたり、友達作りの切っ掛けが出来ていると感じています。
これから先、る〜ぷは、ニーズに応えるだけではなく、【ニーズを育てる場所】にしていきたいと考えています。
さまざまな切っ掛け≠、プログラムを通して考案・実行し、利用者自らが、「あれをしてみたい。これも体験したい」と、目標やニーズを持つ様になっていって欲しい、それが、る〜ぷの想いです。
地域活動センタークム 杉本博一さん
地域活動センタークム(以下、クムと称す)は、NPO法人バムスぴあが運営しています。
『クム』という言葉はラテン語で、「共に」「一緒に」という意味です。
これに日本語の、共に手を「組む」を掛け合わせて、クムという名前になっています。
杉本博一さん |
地域活動支援は3年前、それまで担っていた、市内の医療機関から引き継ぐ形で運営を開始しました。
運営法人であるバムスぴあは、元々は精神障害者が通う作業所として存在していました。
障害者相談支援事業
クムでは地域活動のほか、相談支援事業もおこなっていますが、相談支援事業では、当事者と事業所はもちろん、同じ事業をやっている事業所同士のつながりというのが、大変重要になってきます。
いかに事業所同士が連携を取り合って、当事者を支援していくかという話になるのですが、現状、なかなか充分につながれているとは言えません。
精神障害者には色々な症状・程度の方がおられますが、一つ共通しているのが、人や地域とのつながりが絶たれている、ということです。
それによって、心のバランスが非常に不安定になって、生きづらさを感じるに至っていると思います。
地域活動支援センター 相談支援型
地域活動支援センター事業には、T型・U型・V型とありますが、この内T型が『相談支援型』と言われるもので、U型とV型は作業所に近い形態となっております。
相談支援型の対象となるのは、精神障害者のほか、知的障害者や身体障害者、障害児、それに家族や地域住民、関係機関にまで及びます。利用方法は、来所面談・電話・訪問です。
前述の様に、クムを運営している法人が、元々精神障害者の支援を行う団体だったので、現在でも相談支援型の対象者の90%以上が、精神障害者(他障害との重複も含む)となっています。
ただ、直接相談に来る人を割合別に見ると、精神障害者本人というのは減少傾向にあって、家族や支援者・支援機関の割合が増えてきています。
これは昨今、精神障害者の相談ケース数が増え、一事業所による個別支援の形態から、複数の事業所でケースを共有しての連携支援の形態にシフトしていることを物語っています。
結果として事業所間での相談・協議の場面も増え、それを行うための、各々の日時の調整もどんどん必要になってきています。
また、1つの相談ケースに対して、以前は事業所の面談室でやり取りをして終わっていたのが、最近では、例えば一緒に病院に行ったり不動産屋を訪ねたりするなど、同行が伴う支援が増えたため、ケース1人当たりに費やすべき時間というのは、大幅に長くなっています。
相談支援の内容
代表的なものは以下の3項目です。
@不安の解消・情緒の安定
A福祉サービスの利用
B障害や病状の理解
この3項目で、全体の約70%を占めています。
この内@については、例えば「今日○○に行って、誰かに睨まれた様な気がした。不安だ」といった電話を、毎日してくる人がいます。
しかしこの、時間にして5〜10分程度の電話をすることで、本人が安定した気持ちになれるのであれば、これも一つの支援かな?と思います。
また、Bについては、親御さんからの相談を受けることが多いですね。
「何でウチの子は、○○なことを言うんや?腹が立つ」と言われたりする訳ですが、それに対しては、「お宅のお子さんは病状からして、こういう苦しみを訴えていて、こういうことを伝えたいのと違いますか?」と、親御さんとの面談を繰り返すことで、何とか病状・障害の理解をしてもらおうとしています。
引きこもりの支援
現在、一番多く関わっているのが、引きこもりの人に対する支援です。
以下に状況をまとめます。
若年層(10〜20代) | 壮年層(30〜50代) | 高齢層(60代〜) | |
相談者 | 親御さん | 親御さん / 御本人 | 御本人 |
相談内容 | いつ抜け出せるのか! | 社会参加をしていきたい | 一人暮らし |
相談方法 | 来所面談 | 来所面談 / 訪問 | 訪問 |
課題 | 病状の理解・受容 | 社会との接点作り | ケアマネジメント |
引きこもりになる人は、精神疾患を持っている場合が非常に多いですが、引きこもりになったために周囲との関係が絶たれ、その結果として精神疾患になる人もいます。
若年層の人については、本人に会うことはなかなか出来ません。
相談者は専ら親御さんで、「ウチの子はいつ引きこもりから抜け出せるのか!」と聞かれるのですが、やはり何回か面談を繰り返して、それを通じて、本人と最も関係の近い親御さんが、本人の病状を理解するようにしていくのが課題です。
30代ぐらいになると、訪問した際、本人自身が面談に応じるケースが出てきます。
そして上手くいった場合は、親同伴ではありますが、本人がクムまで訪ねてくる場合もあります。
紆余曲折はありますが、クムに来て、同じ障害のメンバーと関わることで、外に出る意欲が芽生え、それが切っ掛けで社会性が再び付いてきた人もいます。
60代以上の引きこもりというのは、もう親御さんはかなり高齢になっており、従って相談は親からではなく、本人か、地域包括支援センターから来ます。
地域包括支援センターは、高齢者福祉の相談窓口ですが、高齢である親御さんの支援に入ったところ、家の中に引きこもっている子ども(障害者)がいるのを発見し、クムに連絡をしてくるというものです。
現在高齢(80代後半以上)の親というのは、障害の有る我が子を、あまり外には出したくないと思っていた世代です。
そのため、長年にわたって家の中に閉じ込めた状態を続け、その内親自身も高齢による健康状態悪化が原因で、社会との接点が絶たれてしまうのです。
当然、親が亡くなったという高齢引きこもりの人もいるわけですが、何十年も社会と接してこなかったために、外から支援しようとしても拒絶されてしまうことが多く、このことは、高齢化が進むこれからの社会に於いては大きな課題になっています。
以上のような現状を踏まえ、今後クムとしては、やはり『つながり』を大事にして、連携は勿論、そこから【継続出来る支援体制】を、築いていきたいと思います。
豊中市障害者自立支援センター 山口博之
精神障害のピアカウンセラーとして、高畑さんと杉本さんの取り組みを興味深く拝聴しました。
当事者として、皆さんに一番お伝えしたいことは、「精神障害というのは、ごく限られた少数の人たちではない」ということです。
歴史上の有名な人物や、現在活躍している芸能人の中にも、うつ病など、精神疾患の人はいます。
その人たちが、例えば、福祉的な指導を受けたりしたことがあったでしょうか?
対応が大変で、本人も辛いという時期は確かにありますが、それは一時的なものであって、それが全人生ではありません。
よって、病気や障害が全人格と見なされるのは、おかしなことです。
山口博之副理事長 |
薬と定期診断は必要でも、それ以外は普通に生活している人は一杯います。
ごく一部の、手の掛かる人や犯罪を犯した人にだけ焦点を当てて、精神障害者像を悪くするのは問題だと言いたいです。
かつて厚生省(現厚労省)の人などに、「精神障害者の1000人に6人は犯罪者ですが、6人をもって残り994人を犯罪者扱いするのは、人権侵害には当たらないんですか?」と聞いた事があります。
その時、相手は何も答えることが出来ませんでした。
手の掛かる人がいるということは、一当事者として認めますが、それだけで「全人格が精神障害」の様なレッテルは貼らないで欲しいということですね。
先程、クムさんも言っておられましたが、持つべきものは横の連携で、「うちはここまで」「これ以上は何も出来ない」とは、なるべきではありません。
また、これも先程触れておられましたが、今一人世帯が増え、引きこもりの人は親や家族が何とか支えている状態です。
「本人の責任」「家族が何とかする」という考えでは明らかに限界がありますが、旧来の日本の福祉は、この2つの考えが前提で成り立っていました。
しかし単身世帯が増えた現在、この考えでは福祉は崩壊します。
もっとほかの発想にシフトするよう、どこも工夫をしていかなくてはなりません。
その一方で、『自立支援』と謳っている以上は、「る〜ぷ」や「クム」といった事業所の人に頼るだけでは、「自分のしたいことをした」という体験にはなりませんから、その意味では主体性が大切です。
かつて豊中は福祉の面ではなかなか進んでいました。
今はあまり聞かなくなりましたが、現在の、日本の地域福祉の在り方に於いて、豊中がモデルになっているところは少なからず存在しているので、そのことは誇りに感じています。
皆さん一人一人が担い手として、何も特別難しいことを考える必要は無いから、ちょっとした理解、ちょっとした人使いで、育んでいってくれたらなと思います。
この後、質疑応答が行われましたが、精神障害当事者で支援者でもあるという方より、「制度が総合支援法になって、精神障害者の介護給付や重度訪問介護の支給が認められる方向になっていくと思うが、実際に需要は増えていくものなのか?」という質問がなされました。
これに対して、「需要は増える。今、引きこもりは2万〜3万人いて、周りとのつながりも無いから、最後は保証人も身元引受人も無いという状態になる。そんな時、地域メイトとでも言うのか、周りで支える人は必要となってくる。夜中に騒いで自傷行為に走る人もいるので、地域の理解を得るのは難しいが、重度訪問介護としての支援は、必要になってくるし、重度ではなくても、精神障害の人は調子の波がある。居宅での支援を通じて、本人が生活力を付けることもあるだろう」という回答がなされました。
また、「精神障害者の在宅にヘルパーとして入ったとしたら、どの様な接し方をして、どういう点に留意すれば良いのか、もう少し具体的に、踏み込んで教えてほしい」という質問がなされました。
これに対しては、「ヘルパーは一人だけで抱え込まないでほしい。あと、短期に結果を出そうとせず、ロングスパンで良いものを創り出せればいいじゃないか、という姿勢で接してほしい。構えて考えなくても、皆さん一人一人が支援者になれるのではないかな」という回答がなされました。
精神障害者が対象の相談ケースは、どんどん増えてきています。
それと共に、難しいケースや、一つの事業所だけで抱えるのはしんどいケースも、増えていくのでしょうが、一方で、【精神障害=難しいだけ】という固定観念を持つべきではないのは事実です。
少しでも当事者本人に、自分の持つ潜在能力やストレングス(強味)を発見してもらい、相談支援を継続させながらも、最終的には自立支援になるよう、一人一人と接していきたいですね。
最後に、当日、猛暑の中お越し下さった参加者の方々、そして講師の方々、本当に有難うございました。