第17回全国自立生活センター協議会 職員研修会に参加しました


2008年6月22日から24日まで、全国自立生活センター協議会(JIL)の職員研修会が行われました。
2月の所長セミナーと同じく、千里中央のライフサイエンスビルが会場となりました。

今回は、『自己選択・自己決定を問い直す』ということが全体テーマとなり、先ず1日目には、同じ『自己選択・自己決定』でも究極の場面であろう、『死』について、『あなたは尊厳死を選びますか?』と題したシンポジウムが開かれました。
シンポジストは、ALS/MNDサポートセンターさくら会の橋本操(みさお)さん、川口有美子さん、安楽死・尊厳死法制化を阻止する会の清水昭美さん、それにJIL代表の中西正司さんでした。

尊厳死の問題が社会で関心を集めるようになって既に久しいですが、この日のシンポジウムでは、
「医者の一存による尊厳死の実行は、現在では殺人罪になるが、もし法的に尊厳死が認められると、殺人罪には問われなくなる。本人の意志に反して尊厳死が実行されることは、絶対になってはならない。他方、人生の最期のタイミングを自ら選択する、『死ぬ権利』という考え方も無視は出来ないので、大変難しく、また重い問題である。JILとしては、特に重度の障害者や難病の人が、本人の意志が充分に確認されないまま、『尊厳死』の名のもとで死期が早められる事態が、あってはならないという思いが一番強い。よって尊厳死の法令化には反対する立場を取る。」
という話になりました。

左が中西正司さん、右が清水昭美さん 橋本操さん 『「生」と「死」の自己決定を問う』と書かれた横断幕


会場全景。ご覧の通り、後ろや横のスペースにも座席が追加され、ギッシリと埋まっていました。関心の高さを物語っています。


このあと、同じ1日目の夜には同時に3つの研修が行われましたが、その内『CILの中での障害者の役割』と、『CILの中での健常者の役割とは?』に、当センターから参加しました。
まず『CILの中での障害者の役割』では、ヒューマンケア協会の中原えみ子さんと、CIL小平の小泉信治さんが講師になり、

『当事者として、出来ることもあれば出来ないこともある。自分のキャパシティーを超えていると思われた場合は、無理受けせずに断ることも大事。仕事の優先順位を、きちっと決めなくてはならない。最終的な決定権は当事者にあり、だからこそ日頃からの自己管理が大事。』

ということが言われました。
そして『CILの中での健常者の役割とは?』では、まずはグループ別ディスカッションが行われ、各自が、日頃抱いている悩みを打ち明け合ったのですが、その内容は、どこもよく似た内容でした。以下に要約します。

・ 人材・人手不足、特に絶対的な介護者不足で、休日返上が当たり前になっている。
・ 当事者との関わり方、距離感の保ち方が分からない。
・ 健常者の立場で、当事者にどこまで意見を言ったり、疑問をぶつけたりして良いのだろうか?
・ 新しい介護者・コーディネーターと、ベテランの介護者・コーディネーターとの間に、意識の差がある。
・ 介護者が仕事を、介護者自身にとって都合好くしか捉えていない(シフト面などで)。
・ 介護者がすぐに辞めてしまう(待遇面での不満などを理由に)。
・ 介護という仕事の魅力が伝わらない。
・ 指示をうまく出せない当事者や、ヘルパーに依存している当事者がいる。
・ 緊急時、当事者もパニックになって指示を出せない時、どうすれば良いのか?
・ 当事者の自己決定に疑問がある場合、どこまで尊重するべきなのか?
・ 介護者同士の横の連携が希薄である。
・ ここでみんな共通の悩みがあると認識し合っても、それを実際にどう活かせるのか?

これらの悩みに対して、具体的な解決策というのは、時間的な制約もあって、なかなか出せなかったのですが、総合的な回答が、講師であるCIL日野の秋山宏子さんと、CIL小平の久保田さおりさん(いずれも障害当事者)から出されました。

『健常者の役割』会場全景 講師の秋山さん(右)と久保田さん(左)


CIL日野:秋山さんの話
介護者の研修や、介護者の人たちが話せる場を作ろうという試みを、今年から2ヶ月に1回の割合で始めている。利用者さん宅への直行直帰では、なかなか介護者同士の関係は築けないので、介護料を口座振り込みにせず、事業所まで取りに来てもらうようにして、その時に話を聞く時間を設けるようにしている。役割分担を特にハッキリさせずに、コーディネーターも生活支援の部分にかなり関わっている。当事者とコーディネーターが相談しながら介護者を選定しており、当事者がコーディネーターにかなり協力してもらって、自立支援をしている。特に新しい介護者が入る場合は、利用者本人への協力を求めている。

CIL小平:久保田さんの話
CILは当事者主体が理念だから、当事者が介護者を育てていくもの。その中で、誤った介護サービスの使い方をしている利用者や、誤った介護の仕方をしている介護者、それに辞めたい(介護者が)、辞めさせたい(介護者を)といったトラブルがあった場合は、現場に飛んでいって話を聞くGM(ジェネラルマネージャー=当事者)というのがいる。GMがどちらに対しても、注意・指導が出来るようになっている。GMとコーディネーターが常にセットで、日々の自立支援や介護者派遣などを行い、コーディネーターが両者の声を集積してGMに伝える仕組みが出来ている。コーディネーターが各介護者を呼んで、1対1で面談して話を聞く時間を設けている。コーディネーターは介護者の気持ちの代弁者だと思う。当事者も健常者も、本来は、お互い思っていることをぶつけ合えるのが理想。


2日目の23日には、『ピアカウンセリングと相談業務の違い』についての研修が行われ、ヒューマンケア協会の中原えみ子さんと、沖縄県CILイルカの長位鈴子さんが講師を務めました。この中で、
「相談業務は、形としては一方的な相談→一方的な回答となる場合が多い。これに対してピアカウンセリングは、じっくり傾聴する事が基本で、カウンセラーがすぐに回答するような態度は、好ましくない。また相談業務に比べ、より対等な目線で話を聞く姿勢が必要となる。ただ、相談業務の中でも、ピアカン的態度で臨む必要がある場合は少なくない。」
という話が出ました。
一般に、相談業務といえば、その内容が主に『何々に関する情報提供』というような、具体的な場合が多いのに対して、ピアカウンセリングは、内容がより個人的・内面的で、そのぶん、より守秘義務の重要性が増してくるというのが、あると思います。

また同じ2日目には、『ヘルパー業務の一般知識』の研修も行われました。
この中では、当事者が身振り無しに物を伝えるのがいかに難しいかというのを、ゲームを通じて伝える体験をしたのですが、その内容は、
『2人一組になり、ひとりが自分の理想の家を絵で表現し、それを言葉の説明だけで、もう一人に伝えて、絵で再現してもらう』
というものでした。
ただ、研修の中で、介護者を『使う』という表現が度々出ており、その事の是非を問いたいという感想が、聞かれました。
権利擁護を謳うのが障害者団体である以上、当事者は当事者自身のことだけではなく、最も身近な健常者である介護者のことも考え、また介護者自身やコーディネーターも、CILや自立支援の意味を、より深く理解する必要があるとの思いを新たにしました。


今回の職員研修では、2月に同じJIL主催で行われた所長セミナーに続き、いろいろな思いを打ち明けたり、認識を新たにすることが出来ました。
しかし
問題は、研修の場で学んだことを、実際にその後、仕事場で教訓として生かせるかどうかです。
研修で集まったその場でだけ話を聞いて、あとはすぐ忘れてしまうというのでは、意味がありません。
一人ひとりが、研修で学んだ記憶を風化させないよう、肝に銘じながら、日々の仕事に取り組むことが不可欠だ
と思います。


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