2008年度 第二回市民講座を開催しました
テーマ:判断能力が不十分な方の支援
  〜日常生活自立支援事業と成年後見制度〜  


2008年10月13日(月=祝日)、今年度第二回市民講座が、ルシオーレホールにて開催されました。
今回は、財産・金銭の管理や福祉サービスの利用といった行為を行う上で、判断能力が不十分であるために支援が必要な方のための、2つの制度について講演していただきました。
その制度とは、【日常生活自立支援事業】と、【成年後見制度】です。
講師に来て下さったのは、財団法人豊中市福祉公社 相談企画課の加藤崇(たかし)さんと、NPO法人権利擁護たかつき 事務局の高岡克行(かつき)さんです。
当日は、約35名の方が参加されました。

まず、【日常生活自立支援事業】について、加藤崇さんが講演されました。
この制度は、もともとは『地域福祉権利擁護事業』という難しい名前で、1999年10月に創設されました。現在の名称に変更したのは、2007年度からです。
内容は、高齢者や精神障害者、知的障害者等において、判断力が不十分なために、金品・財産の管理が難しい、家賃などの支払い等がうまく出来ていない、また、福祉サービスなどを利用する際の手続きのやり方を理解できない、という人がいた場合、その人たちに代わって財産管理や手続き遂行などの支援をする、というものです。
従って、上記に該当する人は、この制度の利用が望ましいかも知れない、という事になります。
特に、在宅でひとり暮らしの該当者においては、悪質な商法に引っかかって契約を結んでしまう、という事も起こり得るので、その場合の問題解決の支援(クーリングオフの実施など)も、必要になるのではないかと思われます。

なお、制度利用にあたり、障害者手帳(療育手帳、精神保健福祉手帳)や、医師の診断書(認知症である、などの)は、必ずしも必要ではありません。
また、在宅の方のみの対象ではないので、入院中の人や施設入所の人も、利用対象となります。
施設入所者については、施設利用料の支払いも、支援内容の範囲に入っています。

さて、この日常生活自立支援事業が誕生した社会的背景として、おもに以下の4点が挙げられます。
◆少子高齢化が進み、今から約半世紀後には、国民の5人に2人が高齢者、つまり、3人で2人の高齢者を支えなくてはいけない世の中になるだろう、と言われている。
◆これまでは、当事者の身内が、善意で財産管理などの援助をおこなってきたが、身内ということでの、金銭上のトラブルが絶えなかった。
◆日本の福祉の考え方が、障害があっても高齢になっても、地域で自立した生活を送れるようにすべき、というものに進化した。
◆制度開始当時は介護保険が始まる半年前であり、来たる介護保険制度開始に向けて、それに先駆けた取り組みを始める必要があった。

講座全景 加藤崇さん


日常生活自立支援事業は、各都道府県・政令指定都市の、社会福祉協議会が実施主体となっています。
豊中では、社会福祉協議会ではなく、福祉公社が実施主体となっているのですが、これは、大阪府と神奈川県において、この制度導入前から先駆的に、『経済生活支援サービス』という名称で、判断力が不十分な高齢者などに対する支援を実施しており、その中で、豊中市の福祉公社も、実施主体に加わっていたという経緯があるためです。
実施の総元締めは大阪府の社会福祉協議会で、府社協から、豊中市福祉公社が受託する仕組みになっています。

この制度の利用にあたっては、対象者本人との契約が基本となります。
日常生活自立支援事業は、判断力が不十分の方の支援が目的ですが、これは言い方を変えると、『不十分ながらも判断力の有る人が対象』という事になるわけです。
後述の成年後見制度の場合は、自分で判断する事が出来ない状態の人(認知症が相当進行した人など)が利用対象となるのですが、それに対して、福祉サービスの利用を『する・しない』の意志決定能力はある人が利用対象となるのが、日常生活自立支援事業です。
従って、制度利用の契約は『本人の意志のみが尊重される』という事になり、契約能力の有無を判定するためのガイドラインも存在します。
そして利用の目的が金銭管理の場合は、指定金融機関に本人名義の口座を開いてもらい、そこに各種収入が振り込まれるようにする、という事になっています。
また、通帳・福祉手帳等は実施主体(豊中市なら福祉公社)が預かり、本人の残高状況などが分かるように、通帳のコピーと出納状況を表にまとめた報告書を、毎月本人に渡しています。
現状では、この制度を利用したいという人は、金銭管理のためが多いという事で、福祉サービス利用に関する援助が必要という人は、あまりいないという事です。

利用料については、1回の援助(訪問)につき900円となっており、利用にあたっての相談は無料となっています。
この『1回』というのは、具体的には『週1回』を意味しており、毎週の利用では、月あたり3,600〜4,500円かかる計算になります。週2回以上の訪問になることは、無いようにするということでした。
なお、生活保護受給者については、利用料無料です。


次に、【成年後見制度】について、高岡克行(かつき)さんが講演されました。
はじめに、高岡さんが権利擁護の仕事に就くまでの経緯を、いろいろ具体的なケースの体験談を交えながら、お話されました。
また、先ほどの加藤さんの話と関連させて、
「一般の市民でも、振り込め詐欺に引っかかる例が、今でもある。だから知的障害がある人だと、よりその危険性は高い。」
「ある人が、判断力の不十分さゆえに高額な買い物をしてしまい、かなり長期のローンを組んでしまった。その人に、『成年後見制度を使わないか?』と働きかけてみたが、頑として拒否された。」
といったケースが紹介されました。
このような人たちに、もっと近い距離で寄り添って、サポートをしていけないものか?という思いで立ち上げたのが、『権利擁護たかつき』だということです。
立ち上げたのは、本年(2008年)4月です。

現在、成年後見制度を利用している人の多くが、多額の負債を抱えた結果、生活が厳しくなり、今後の金銭管理・生活立て直しのために利用しているという事でした
また大阪府下で、法人後見をしている事業所は、2ヶ所しか無いということです。

さて、成年後見制度は2000年に、それまでの禁治産制度(説明はこちらを参照)に代わる法律として、創設されました。
判断能力が相当不十分な人の、財産や資産などを保護するための法律ですが、『判断力が満たない』と見なされるが故に、例えば選挙の投票権が無くなるなど、一定の制限が加えられます。
また、後見人となる人は家庭裁判所の判断によって決められ、制度を利用したいという請求権については、本人のみならず、四親等以内の親族に公的に認められているというのが、先の日常生活自立支援事業との大きな違いです。
管轄となるのは法務省で、そのため福祉制度の利用を巡っては、厚労省との間で縦割り的な壁というのも、発生しうるという事です。

成年後見制度には、『同意行為』と『代理行為』というものがあります。
簡単に説明すると、『同意行為』とは、『利用者本人の契約行為のうち、あとで後見人が取り消し出来るもの』を指します。
例えば、必要のないと思われる大きな(高額な)買い物をした場合などです。
『代理行為』とは、『後見人が、利用者本人に代わり、実行する事が出来る』とされる行為です。
例としては、通常の財産管理・保存、口座の開設・解約などの預貯金管理、権利証や実印・銀行印などの保管、などがあります。
また、制度利用にあたっては、本人の判断力の程度によって三段階の判定に分けられ、その判定と説明、および『同意行為』・『代理行為』との関係は以下のとおりです。

後見:日常的に物事の判断をするのが難しい状態。同意行為と代理行為の各目録は、初めからメニューとして含まれている。
補佐:不安なところがかなり多いかな?という状態。同意行為は初めから含まれている。代理行為は含まれておらず、補佐人(後見の場合は後見人となるが、補佐なので補佐人)との相談の上、必要な目録があればそれを選択する。
補助:時々不安なところがあるのかな?という状態。同意行為と代理行為は、どちらも元々は含まれていない。

制度を利用する際には、まず必要事項を書いた書類を家庭裁判所に提出し、利用が正式決定すると、東京の法務局に登記されるという事です。
なお、禁治産の時代とは違い、登記されても戸籍に載ることはありません。
これらの分類は、判断力が不十分な中でも、可能な限り本人の能力を引き出して、その上での支援をしていこうという発想に基づいています。

高岡克行さん 最後の質疑応答の時

最後に質疑応答が行われ、
「日常生活自立支援事業を利用している当事者が他市に転居した場合は、また一から全部手続きをやり直しですか?」という質問に対して、
「元々住んでいた市の事業主体(例えば豊中市なら福祉公社)からも、情報を提供するので、新しい居住市でも円滑にサービス利用が出来るようにする。ただ、契約自体は改めてしてもらう事になる。」
という回答がなされました。また、
「NPO法人自体が、成年後見人になるのは?」という質問に対して、
「最もだと思う。裁判所に選任を依頼した際、全然知らない人が指名されて、日頃顔を合わす機会も無いというのは、成年後見制度の力を発揮出来ている状況とは言えない。よく知っている親族の人がなったほうが良いのかも知れないが、親族という事で感情が入り過ぎて裁判所でケンカしたり、後見人になっている親族の人が、預かっている本人の財産を、ちょっとぐらいなら親族自身のために使ってもいいだろう、という考え方をしてしまうという問題点がある。」
という回答がなされました。

今回は、少し難しい内容がテーマでしたが、いずれは私たちにも、これらの制度が必要になる時が来るかも知れません。
その時に備えるという意味でも、重要な情報を聞けた講座だったと思います。
当日参加して下さったみなさん、そしてお二人の講師の方、本当に有難うございました。



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