2007年度 第一回市民講座を開催しました
テーマ【高次脳機能障害について】


2007年度の第一回市民講座が、11月10日に開催されました。
今回のテーマは、『高次脳機能障害について』で、講師には、大阪府障害者自立相談支援センター 身体障害者支援課 総括主査の久保博康さんと、当事者の家族で、NPO法人大阪脳損傷者サポートセンター職員の、石橋佳世子さんのお二人に来て頂きました。

はじめに、久保博康さんが講演されたのですが、久保さんは豊富な資料を掲示しながら、高次脳機能障害の特性から症状、リハビリから今後の支援に至るまで、トータルで話をして下さいました。

そもそも『高次脳』とは何なのか?
高次脳とは、脳の中の、記憶・注意・思考・言語・行動管理・感情コントロールといった、高度な働きをする部分です。
この部分が正常に機能しなくなる状態が高次脳機能障害で、原因としては、交通事故などの事故や、脳炎などの病気があります。

この障害の一番大きな特徴というのは、『(人の目には)見えない障害』である事です。
本人自身も、自分が記憶障害があるという事を認識出来ない場合が多く、そのため家族と衝突したり、現実とのギャップに苦しむケースが多くなっています。


久保博康さん。ソフトな語り口で、広範囲にわたる情報を分かりやすく提供してくれました。


一般に、高次脳機能障害は、記憶力や注意力、感情コントロールの障害だと言われていますが、その他にも、損傷する部位によって、失語や失認(視覚機能そのものには問題がないが、物の色や形をうまく認識できなくなる)があり、さらに、難しい言葉ですが、
半側空間無視(目では見えているが、おもに視界の左半分に対して、注意を向けにくく、対象物を見落としてしまう)などの症状があります。

もともとはふつうに仕事が出来ていた人が、前とは全然違う状態になってしまった。
このことで、家庭でも職場でも戸惑いが出てきます。特に家庭での戸惑いは大きなものがあります。
しかし、身体的には何ら障害がないために、障害者手帳を取得する事が出来ません。
そのため『制度の狭間に置かれた障害』という事になります。

何とか家族に理解を求め、職場にも理解を求めて、社会復帰に向けた支援を行いたいと考えています。
そのために、脳の活動、特に視覚情報を受ける部分を刺激するリハビリや、記憶を失った代替手段を獲得するリハビリ(たとえばメモリーノートを付けることの定着など)を実施しています。

今後は、地域における、この障害の理解を浸透し、特に当事者(および家族)が生活する地域においては、相談支援センターの確率と、各地域間の支援ネットワークを充実させていく事が課題で、そのために大阪府としても、いろいろ取り組んでいきたいという事です。


会場全景。当日は約35名の参加者が来られました。 高次脳機能障害関連の書籍も販売されていました。














さて、次に講演した石橋さんは、当事者である夫の話を中心に、講演されました。

石橋さんの夫は1996年3月、33歳のときに単純ヘルペス脳炎という病気にかかりました。
この病気は、100万人に1人がかかるという珍しい病気で、最初は高熱が続き、「風邪ではないのか?」と思われていたのですが、記憶力の著しい低下が見られ、「何かおかしいな。」と思っていたある晩、容態が急変して意識不明になりました。
ただちに入院したのですが、その後も一週間ぐらいは、原因を特定出来ず、結局、脊髄の検査などをする中で、ヘルペスではないか?ということになったそうです。

1〜2週間ほど意識不明になる状態があったりした後、一命は取り留めましたが、記憶がほとんど出来なくなったほか、地誌的(今いる場所の認識)、情緒等に障害が残りました。

医者は最初、石橋さんにこう訊いてきました。
「助かっても、寝たきりになるか、ずっと介護が必要な状態になるかも知れない。それでも生かしますか?」
また、体は問題なく動くようになるまでに回復した(見た目は健常者と全く同じ)事から、リハビリを施そうとしましたが、その際にも、
「リハビリをしたって、社会復帰なんてムリやで。」
と言われたそうです。

そのような、悔しい気持ちにさせられる言葉を聞かされたからこそ、石橋さんや家族らは、
「絶対に社会復帰させて見せる。」
と、より強い意志を持つようになりました。

試せることは、ありとあらゆる事を試したと言います。
家族として、家庭内では以下の工夫をしました。
『物の名称などを記したラベルなどを、ほとんど全ての物に貼り付ける。』
『どんな事でもメモ書きをしてもらう。』
『可能な限り、一日の行動パターンを固定化する。』
『口出しをせず、可能な限り自由にさせる。』

今は定着しているシステム手帳(メモリーノート)も、最初はレコーダーやポラロイドカメラなど、ほかの手段も試し、試行錯誤の末にシステム手帳に落ち着いたという事です。

石橋佳世子さん 質疑・応答の時間の両講師。


現在、石橋さんの夫は、派遣社員として働いており、まだまだ前途は厳しい部分もあるでしょうが、今出来る精一杯の社会復帰を果たしたと思います。
そして石橋佳世子さん自身は、2006年に発足した、『NPO法人おおさか脳損傷者サポートセンター』で、会計などの仕事を行う傍ら、ほかの、同じ障害がある人の家族などの相談に乗っています。
まだ新しい団体だけに、件数自体は多くないほうですが、当事者・家族・専門職・行政・地域等の各方面と連携を取りながら、脳損傷者を多角的にサポートするネットワークを創る事を目標にしています。













高次脳機能障害は、まだ十分には知られていると言えない障害で、それだけに、この講座がきっかけとなって、少しでも多くの人が、この障害を理解する方向に向かえばいいなと思います。
両講師の方、参加者のみなさん、ありがとうございました。


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